遺産をめぐって兄弟で相続争いが生じる事例が後を絶ちません。ワイドショーでも、度々、芸能人の相続争いが報じられています。 遺産のことで兄弟が仲違いしてしまっては、亡くなった親に申し訳ないでしょう。円満に遺産分割協議が進むよう、この記事が参考になれば幸いです。
相続争いのよくある事例12選
相続争いには、次のような典型事例があります。
- 他の相続人から相続放棄を求められる
- 遺産を勝手に使い込まれた
- 相続開始を知らないうちに他の相続人が相続していた
- 遺言書が有効か無効かで意見が割れている
- 遺言の内容が偏っている
- 決められた相続分よりも多くの遺産を取得しようとする人がいる
- 特別受益について意見が割れている
- 寄与分について意見が割れている
- 誰がどの財産を取得するかで意見が割れている
- 不動産の分割方法で意見が割れている
- 不動産の評価額について意見が割れている
- 不動産を取得することになったが他の相続人が登記に協力してくれない
以下、それぞれの事例の詳細と、その予防策について説明します。
他の相続人から相続放棄を求められる
例えば、長男が、他の兄弟に対して相続を放棄するように求めることがあります。相続人である以上、相続する権利はありますから、相続放棄をするかどうかは、その人の自由です。例えば、長男が、他の兄弟に対して相続を放棄するように求めることがあります。相続人である以上、相続する権利はありますから、相続放棄をするかどうかは、その人の自由です。
遺産を勝手に使い込まれた
相続人の一人が被相続人の預貯金を勝手に引き出して使い込むトラブルは比較的よく起こります。
予防策
被相続人の預貯金がある金融機関は、死亡を把握すると、口座を凍結して勝手に引き出すことができないようにします。 2019年7月1日に改正民法が施行された後は、相続された預貯金の一定額に限り、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済の資金需要に対応できるよう、遺産分割前にも払戻しが受けられる制度が創設されましたが、相続人の一人が一定額以上の預貯金を勝手に引き出して使いこむトラブルは依然として起こり得るでしょう。相続人の一人が一定額以上の預金を勝手に引き出してしまうようなおそれがある場合は、金融機関に被相続人の死亡を伝えて口座を凍結してもらうとよいでしょう。死亡の事実は誰から伝えても構いません。 伝える先は、亡くなった人が口座を開設していた金融機関の支店です。直接赴いて伝えてもよいですし、電話で伝えてもよいでしょう。 亡くなった人の氏名、住所、生年月日、口座番号等の確認があるので、スムーズに答えられるように準備しておくとよいでしょう。 複数の金融機関に口座を持っている場合は、金融機関ごとに連絡する必要があります。なお、一つの金融機関の複数の支店に口座を持っている場合は、一つの支店に連絡すれば十分です。
相続開始を知らないうちに他の相続人が相続していた
相続人が複数いる場合に相続手続きをして遺産を取得するためには、相続人全員が実印を押印した遺産分割協議書が必要になります(遺言がある場合は不要なケースもあります)。 したがって、基本的には、相続開始を知らないうちに他の相続人が相続していたということは起こらないのですが、相続人の一人が勝手に被相続人の口座から一定額以上の預貯金を引き出したり、手続きの必要がない動産を勝手に持って行ったりすることがありえます。 このような場合は、不当利得返還請求や不当行為に基づく損害賠償請求等をすることが考えられます。弁護士に相談するとよいでしょう。
遺言書が有効か無効かで意見が割れている
遺言は次のような場合に無効となることがあります。
- 遺言者が遺言時に認知症等で意思能力がなかった
- 自書でない箇所がある
- 日付がない
- 署名がない
- 押印がない
- 変更が所定の方式にのっとられていない
- 表現が曖昧
予防策
遺言は、遺言者である親が亡くなって初めて内容が明らかになるものですから、相続人である兄弟が取りうる予防策は特にありませんが、遺言者の取りうる予防策としては、公正証書で遺言書を作成することが考えられます。 公正証書で遺言書を作成する場合は、法務大臣に任命された法律の専門家である公証人が本人から遺言内容を聴き取って遺言書を作成してくれるので、遺言書が無効になる可能性が低くなります。 他方、自筆証書遺言の場合であっても、2020年7月10日に改正民法が施行された後は、法務局での保管制度が施行され、保管時に形式不備のチェックがあるため、この制度を利用することで自筆証書遺言でも無効になるケースは少なくなることが期待されますが、施行日までは利用できないので、公正証書遺言を利用するとよいでしょう。
遺言の内容が偏っている
遺言の内容が、一部の人ばかりが遺産を取得できるようになっていると、不公平感からトラブルに発展しやすいです。 また、一定範囲の相続人(配偶者、子(および、その代襲者)、直系尊属)には、遺留分といって、相続できる最低限の割合が法律上決められています。遺留分を侵害する遺贈や贈与がなされた場合は、遺留分権利者は、遺贈や贈与を受けた人に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。
予防策
遺言者である親による予防策としては、遺言書を作成する際に、遺留分を侵害しない内容にすることが挙げられます。 遺言書の作成について不安があるときは、行政書士などの専門家に相談すると安心です。
決められた相続分よりも多くの遺産を取得しようとする人がいる
遺言がなく相続人が複数いる場合は、法定相続分に応じて各相続人が遺産を取得できることになっていますが、相続人の間の力関係によって、一部の相続人が多くの遺産を取得しようとすることがあります。
予防策
相続人間の力関係に差がある場合に、遺産分割を相続人間の協議に委ねてしまうと、トラブルに発展しかねません。そこで予防策としては、遺言で誰がどの財産を取得するか、きっちり定めておくことが考えられます。 もっとも遺言があっても、相続人と受遺者(遺贈を受ける人)全員の合意があれば、協議によって遺言とは異なる遺産分割をすることも可能です。
特別受益について意見が割れている
特別受益とは、相続人が複数いる場合に、一部の相続人が、被相続人からの遺贈や贈与によって特別に受けた利益のことです。
特別受益があった場合は、特別受益の価額を相続財産の価額に加えて相続分を算定し、その相続分から特別受益の価額を控除して特別受益者の相続分が算定されます。このようにして相続分を算定することを「特別受益の持戻し」といいます。 遺贈や死因贈与(贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与)によって取得した財産については、基本的に、すべて特別受益に該当しますが、贈与によって取得した財産については特別受益に該当する場合としない場合があるため、その解釈を巡ってトラブルになることがあります。
予防策
この予防策としては、持戻しの免除が考えられます。特別受益の持戻しの免除とは、特別受益の持戻しをさせないことです。 特別受益の持戻しがあると、贈与財産の価額が控除されますが、持戻しが免除されると、控除されません。持戻し免除の意思表示の形式に指定はありません。 ですが、遺贈による特別受益の持戻しの免除は、同じく遺言によるべきとする見解もあるので、念のため、遺言によって行うべきでしょう。 贈与による特別受益の持戻しの免除は、遺言で行う必要はありません。明示の意思表示は勿論、黙示の意思表示も認められます。ですが、黙示の意思表示は、しばしば相続人間におけるトラブルを引き起こします。 黙示の意思表示の有無で相続人同士が揉めることがあるのです。黙示の意思表示の有無については、総合的に判断されますが、次のような事情があれば、意思表示があったと認められやすいでしょう。
- 受贈者(贈与を受ける人)により多くの財産を与えようという被相続人の意図がある場合
- 贈与の代わりに被相続人も利益を得ている場合
しかし、被相続人の立場としては、死後に相続人間でトラブルにならないように、明示の意思表示をしておいた方がよいでしょう。 なお、被相続人は持戻しの免除の意思を表示した後でも自由にこれを撤回することができます。
寄与分について意見が割れている
寄与分とは、被相続人の生前に、相続人が、被相続人の財産の増加や維持に寄与した程度のことです。寄与分がある相続人は、その分多くの財産を相続することができます。寄与分の有無や金額については杓子定規に決まるものではないので、寄与分を主張する相続人と、それを否定する相続人との間でトラブルになることがあります。
予防策
被相続人が取りうる予防策としては、寄与分がありそうな相続人には、贈与や遺贈をして、かつ、必要に応じて特別受益の持戻し免除の意思表示をすることが考えられます。 寄与分自体を遺言で定めることはできません。 例えば、「長男○○の寄与分は○○円とする。」とか「長女○○の寄与分は相続財産の〇割とする。」というような遺言をすることはできないのです。 しかし、遺言で、相続分や遺産分割方法を指定することは、当然できます。 寄与分がありそうな相続人に対して、例えば、法定相続分が4分の1であるところ、2分の1を相続させる旨の遺言をしたり(「相続分の指定」といいます)、法定相続分が2分の1のところ、相続財産の4分の3の価値を占める不動産を相続させる旨の遺言をしたり(「遺産分割方法の指定」といいます)することは当然ながらできるのです。
誰がどの財産を取得するかで意見が割れている
遺言がない場合は、法定相続分に従って遺産分割することになります。 遺産が現金や預貯金などの簡単に分けられるものだけなら問題ないのですが、現金や預貯金以外の財産について、誰がどの財産を取得するか意見が割れ、トラブルになることがあります。
予防策
予防策としては、誰にどの財産を相続させるのか、主要な財産についてはすべて遺言で指定することが考えられます。また、財産に変更が生じた場合には、遺言書の書き換えを忘れないようにしなければなりません。
不動産の分割方法で意見が割れている
不動産の分割方法を巡っては、遺産分割協議の中でも特にトラブルになることが多いです。 不動産は、遺産の財産価値の多くを占めることが少なくありませんし、自宅の場合は特に相続できるかどうかによって住む場所が変わってくるので生活に与える影響も大きいためです。 また、不動産の分割方法(分割しない方法も含みます)は、選択肢も豊富で、それぞれにメリットとデメリットがあるので、なかなか意見がまとまらない原因になっています。 不動産の相続について詳しくは関連記事をご覧ください。
予防策
予防策としては、やはり、遺言によって分割方法を指定することが考えられますが、相続人のためになる合理的な内容にすることが重要です。
不動産の評価額について意見が割れている
前述のとおり、ある財産を取得する人にとってはその財産が低く評価をされた方が得で、取得しない人は高く評価された方が得であるため、評価額について意見が分かれることがあります。
予防策
各財産の評価額を固めてから遺産分割協議に入った方が、協議がうまくいくことが多いです。
不動産を取得することになったが他の相続人が登記に協力してくれない
取得した不動産の登記に、他の相続人の協力が必要な場合があります。 遺産分割協議によって取得した不動産の登記には、すべての相続人の実印が押された遺産分割協議書(または遺産分割協議証明書)と印鑑登録証明書が必要です。遺贈によって取得した不動産の登記には、すべての相続人または遺言執行者と不動産の取得者が共同で登記申請をしなければなりません。 以下、遺産分割協議によって不動産を取得した場合と、遺言によって不動産を取得した場合に分けて、それぞれ説明します。
遺産分割協議によって不動産を取得した場合
まず、遺産分割協議によって不動産を取得した場合から説明します。 遺産分割協議書の押印に時間がかかってしまう場合に、遺産分割協議証明書にすることでスムーズに進むことがあります。 両方とも遺産分割協議で決まった内容を証明する文書ですが、各相続人が個別に証明するものが遺産分割協議証明書、すべての相続人がまとめて証明するものが遺産分割協議書であるという違いがあります。
相続人が近くに住んでいる場合は、全員が一堂に会して遺産分割協議書に署名・押印することができるので、このような場合は、遺産分割協議書が適しています。 しかし、相続人全員が集まることができない場合は、郵送等で各相続人に順次回していき、署名・押印を集めることもできます。 相続人の数が多いと、全員の署名・押印が終わるまでに日数がかかるでしょうし、途中で紛失することもあるでしょう。 この点、遺産分割協議証明書の場合は、各相続人が個別に署名・押印することができるので、遺産分割協議書の場合よりも日数が短縮できることが期待できますし、途中で紛失されて一からやり直しということもありません。 したがって、相続人の数が多く、かつ、散り散りに住んでいる場合は、遺産分割協議書よりも遺産分割協議証明書の方が便利であるといえます。 しかし、遺産分割協議証明書にも欠点があります。遺産分割協議書の場合は、各相続人がそれぞれ原本を1通ずつ持ちますが、遺産分割協議証明書の場合は、基本的には代表者しか原本を持ちません。 一人が代表してすべての相続手続きを行う場合は、遺産分割協議証明書で問題ありませんが、それぞれが相続手続きを行うのであれば、遺産分割協議書の方が便利でしょう。
遺言によって不動産を取得した場合
次に、遺言によって不動産を取得した場合について説明します。 遺贈によって取得した不動産の登記は、相続人全員または遺言執行者の協力が必要です(なお、遺贈ではなく「相続させる旨の遺言(2019年7月1日改正後は、「特定財産承継遺言」と呼ばれます)」によって取得した不動産の登記は不動産の取得者が単独で申請できます)。 協力してくれない相続人がいる場合は、遺言執行者を選任することで、相続人の協力は必要なくなります。

